カラーマルチスペクトル超音波は腹部血管検査に広く用いられており[1-4],中国では肝硬変は一般的な疾患であり[5-17],肝硬変患者では門脈系の血行動態の変化が報告されている[18-28].近年では,肝硬変や慢性肝炎でも肝静脈スペクトルに変化が生じることが指摘されている[29-35].我々は,肝硬変患者74名と健常者69名の肝静脈ドップラースペクトル波形を比較検討し,以下のように報告する. 1.材料と方法 1. 1 材料 1999-01/2000-07に入院した肝硬変患者74例,男性55例,女性19例,年齢25-78歳,平均53歳,臨床,生化学,超音波,CTまたはMRI,胃カメラにより肝硬変と診断された.その内訳は.ウイルス性(B型肝炎感染後)62例.アルコール性12例で.このうち57例はChild-Pughスコアを行い.グレードA(5〜6点)29例.グレードB(7〜9点)17例.グレードC(10点以上)11例であった。対照群には,男性51名,女性18名,22〜74歳,平均52歳の健常者69名が含まれた.肝硬変患者は全員心不全がなく.心電図も正常であった。 1, 2 方法 プローブ周波数3.5MHzのHITACHI EUB-555Gカラーマルチスペクトル超音波診断装置を使用し.患者は検査前に8時間以上絶食した。検査時.患者は仰臥位で.プローブを右肋骨縁下で上方に斜めに切断して肝静脈と第二肝門を表示し.中肝静脈を明瞭に表示した後.サンプリングボリュームを中肝静脈から下大静脈まで3~5cmの位置に置き.音響ビームの角度は50°以下.吸気と息止めの終了時に患者が落ち着いていて記録のためのドプラスペクトルが安定して表示されるよう配慮した。Bolondi法[29]を参考に.肝静脈のドップラースペクトルを3つのタイプに分類した。(i) type 0 (HV0): 3相性波または4相性波.すなわち2つの陰性波と1つか2つの陽性波. (ii) type I (HV1): 振幅が小さく逆流しない2相性波. (iii) type II (HV2): 門脈流スペクトルに似た連続した平坦波.であった。また.HV0波形を正常波形.HV1.HV2波形を異常波形とするBolondi [29].Ardaら[30]の方法を参考にする。 統計処理 検査結果は.X2検定により統計的に解析した。 2, 結果 肝静脈スペクトルは健常対照者ではすべて0型であった。肝硬変患者では.肝静脈スペクトルが正常(type 0)21例(28%).異常がtype I 40例(54%).type II 13例(18%)53例(72%)であり.両群に有意差があった(P<0.01=)。また,異なる病因の肝硬変の患者間でも有意差は認められなかった. Child-Pugh分類によると,最も重度の肝機能障害はHV2群に,最も軽度の肝機能障害はHV0群にみられた.Child-Pugh分類の違いによる肝静脈異常スペクトルの検出率(Ⅰ型.Ⅱ型)全体では有意差はなかったが.Ⅱ型スペクトルの検出率はChild-Pugh分類Cの患者で最も高く.A分類とB分類の比率では有意差があったが.A分類とB分類では有意差がなかった(Table 1)。 3, 考察 健常者の肝静脈は壁が薄くしなやかで.マルチスペクトルスペクトルでは3相または4相の波形(陰性2波.陽性1波または2波)を示す。この波形は.心臓の収縮期と拡張期による中心静脈圧の差によって生じるもので.頸静脈の波形と類似している。肝静脈スペクトルの異常は.重症脂肪肝.Budd-Chiari症候群[36-38].心不全.収縮性心膜炎.三尖弁閉鎖不全など.さまざまな疾患で発生する可能性がある。1989年.細木ら[38]は.バッド・キアリ症候群の患者において肝静脈スペクトルの変動が消失することを報告し.これをバッド・キアリ症候群の診断の主要な基準とするよう勧告した。キアリ症候群をバッド・キアリ症候群の診断の主要な基準としている。 1991年.Bolodiら[29]は肝静脈のスペクトル変化が肝硬変と関連しており.肝硬変患者の約50%に低振幅の非反転波または完全な平坦波が見られ.そのうち後者は18.3%を占めていると報告し.その基本メカニズムは以下のように考えられるという。(i) 肝線維化の程度に関係し.肝臓のコンプライアンスが低下し.肝静脈の脈動が弱くなる Colli ら [31] も.肝硬変は肝静脈ドップラースペクトルに 75%の感度で変化をもたらすことを見出し.肝静脈スペクトルの異常は肝臓組織の線維化および脂肪化と有意に関連していると結論づけた。両氏は,肝静脈スペクトラムの変化は,肝静脈還流障害だけでなく,肝実質部のびまん性病変でも起こりうると結論づけた. 肝静脈ドプラスペクトル検査は,びまん性肝病変の血行動態の変化をより敏感に反映することができ,疾患の重症度や予後を推定する上で一定の意義があり,Bolodiら[29]と太田ら[32]の研究ではいずれも肝静脈スペクトル波形の変化がChild-Pughスコアと有意に関連するとし,太田ら[33]でも右肝静脈スペクトル波形は肝硬変患者の生存率と相関するとの報告がなされている.我々の症例群では.肝硬変患者74例中53例(72%)に肝静脈スペクトル異常が認められ.Colliら[31]の報告に近く.健常者にはスペクトル異常は認められなかったことから.肝静脈スペクトル変化の発生は肝硬変診断の重要な根拠の一つであり.病因の異なる肝硬変患者では肝静脈スペクトル異常に有意差はないことが示されました。また.肝機能障害の程度はHVII群が最も重く.HV0群が最も軽いことが示され.肝静脈スペクトラム波形の変化はChild-Pughスコアと有意な相関があり.重症度を推定する上で一定の意義があることが示唆されました。 近年.肝静脈スペクトルの変化が慢性肝疾患の早期診断に役立つことが示唆されており.Ardaら[30]は初期の充実性肝疾患(Child-Pugh class A)患者30名を観察し.そのうち22名に肝静脈スペクトルの異常があった。また.国内の研究[34]では.肝静脈径とドップラースペクトル変化の両方が肝線維化の程度と相関しており.さらに肝静脈のドップラースペクトル変化は.管径の大きさも関係しており.管径が細いものはスペクトルパターンに異常が生じやすいとされている。